文集・バイト

曽根雅典ほか

こないだ四〇歳になった。これまでの人生でもっといろんなしごとをしてこれたらよかったのに、とふと思った。人生だいたい八〇年として、あと半分しか時間がない。こういう動物に生まれてしまったからには世の中のできるだけ多くのものごとに触れてから死にたい。 多くのものごとに触れるためには多くのしごとをするのが一番だ。得られる金銭の多寡は、その場合関係がない。 とはいえ、無限にあるしごとをじぶんのからだで体験することはできない。 だから多分、ぼくは本を読むのだろう。作品世界のなかで、登場人物がどんな仕事で生計を立てているかがいつも気になる。フィクションよりも、実際に生きているひとを題材にしたノンフィクションが好き(小説はほとんど読まない)なのもきっとそういうことだ。でも、もっと好きなのは、身近なひとが書いた文章だ。いつも顔を合わせるひとがどんな仕事をしているのか、してきたのかに興味がある。とくに、手を動かしているしごとをしているひとが好みだ。 この文集は、ぼくの〝しごと知りたい欲〟を満たすためにつくった。しごとのなかでも、バイトに限定している。〝正規〟のしごとの話でもよかったのだけど、バイトのほうがバラエティが豊かできっと面白いだろう。しごとの内容だけでなく、しごとを通じて出会ったひとや、できごとの記憶をくわしく綴ってもらった。(「まえがき」より)

  • キネマと恋人 (曽根雅典)
  • 人間の着ぐるみを着るバイトだよ (とりあえずビール)
  • 面倒なしあわせ (みやべほの)
  • バイト気分の雑魚 (橋本亮二)
  • 報酬はピザ二枚 (そいそい)
  • 記憶の贈り物 (向田鉄)
  • 祭りの日 (小谷輝之)
  • ホームカットとトミーフェブラリー (千葉美穂)
  • 二十四歳で坊やと呼ばれるという事 (須賀紘也)
  • 産経新聞を一緒に読むバイト (中岡祐介)

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